金字塔という言葉があります。
エジプトのピラミッドのことを指すようで、ピラミッドが漢字の「金」の字に似ている形だからこういう字面らしいです。面白いですね。別に塔ではない気もしますが。
転じて、後世に残る偉大な何かを指す意味があります。
映画の話題に触れていると、「時代劇の金字塔といえば七人の侍だよね」「SF映画の金字塔ならバック・トゥー・ザ・フューチャーでしょう!」「アクション映画の金字塔ならターミネーターかなあ」のような、ジャンルの金字塔といえば~ というようなテンプレートを耳にしたり書かれていたりする印象がございます。
本作についても前述のテンプレにならうなら、ホラーの金字塔と名高い作品のひとつでしょう。
映画「悪魔のいけにえ」の感想です。
簡単あらすじ
※上記は、筆者チネローテル大家によるオリジナルのあらすじです※
Filmarks短評
映画『悪魔のいけにえ 4Kデジタルリマスター 公開50周年記念版』のレビューを書きました! https://t.co/DUzuHH774W… #Filmarks #映画
— チネローテル大家 (@cinerotel) 2026年1月11日
83分とは思えない長さ これは不満ではなく恐怖ゆえの早く終わってくれという願い 素晴らしいホラー作品
評価:★★★★(星4)
※R15+指定。ジャンプスケアは少なめ
ネタバレなし感想
■あなた、おもったより、ずっとこわい
事前に想定していた10倍くらい怖かったです(しおれる)。
なんとなく観る前の予想としてはジャンプスケアバンバンやってくるタイプのホラー映画の走りなのかな? と思っていたのですが全然そんなことはなくて、むしろジャンプスケアらしい部分ほとんどない気がしました。
不気味さで魅せつつ、でも退屈だな~って感じはしない。ずっと何かが起こりそうな緊迫感が継続しているのがスゴい。画作りもそうですし、効果音であったり物語の展開であったりと工夫を随所に感じました。地味に出てきた要素を丁寧に回収している。
あとヒトコワなのが地味にダメージデカい。そうか、あなたがたも人間か……。
■ダレそうなのに、ダレない
本作、凄い深いストーリーや世界観らしきものがあるわけではない作品です。登場人物たちの来歴もほとんど明かされません。よく言えばさっぱりしており、悪く言えば申し訳程度のキャラ設定しか用意されていない人々。
ただ、行動でなんとなく性格がわかるんですよね。言葉で語らずともこの人こういう生活送ってるんだろうなあとか、こういう騒動経験してそうだろうなあとか、来歴を想像させるようなキャラクターの行動があったり、設定の上手い削り方をしていたりする印象がありました。最低限だけど必要な情報を出している。鑑賞中に、このキャラこういう人なんだろうな~と考えるのが結構楽しい。
そのせいもあってか、そもそも上映時間が短めであることもあってか、ダレる感じがあまりないと思いました。
ワンシチュエーション系のホラー(今回は「なんかようわからんやつに襲われる系」のワンシチュエーションホラーかなと)はどうしてもマンネリというか、いつまでその話してるんだ、どれくらい追いかけっこ見ていなきゃいかんのか、みたいな気持ちになることが少なくないのですが今作はそういう部分があまりない。
疑問のもたせ方が上手いというべきなのでしょうか。詳しくはネタバレありでも後述いたしますが。
一応割と長めの追いかけっこはあるにはあるんですが、あれは……意味のある追いかけっこかなと感じたので……ヨシと判断、でございます。
ネタバレあり感想
ご覧になる際はご注意ください。
わからないという原初の恐怖
理解できないモノはどうしても怖いものでございます。そのことをしっかり伝えてくれるのが本作だなあと感じました。
本作、いわば敵側のレザーフェイス(弟)を始めとする一家(なぜか全員男性)の目的がほとんどわかりません。家畜の屠殺を生業としてきた一族のようですが、その一方で人殺しも行っていたらしく、父親は料理人で息子たちは家畜/材料の確保や始末を担当していることが会話などからなんとなく伺えます。なお父親はガソリンスタンド(兼食事処)の経営もしており、そこで出している食事の材料についても息子らに準備させているような気配がします。そして死体かと思いきや生きている祖父は、かつては屠殺の名人だったという話があり、若い女の生き血を啜ることで生きているような感じです。この家族から女性の気配がほぼないので、レザーフェイスらの母親に関してはマトモな出会い方をしていない可能性があります(それこそ、唯一生きながらえた女性・サリーのように襲ったグループのうちの生き残りを無理やり引き込んで……など)。祖母の死体はあったように記憶していますがあれは生きているのかな……。
一応、材料の入手と殺しが目的の一家のようですが、家が山の中にあってまあまあ効率が悪いですし、息子二人の作戦や行動はどう見てもベストとは思えません。殺しが楽しいからやっているにしてはあまり獲物を引っ掛けられそうにないですし。まだマトモそうな息子に関しては墓荒らししてますし。ミイラも料理に使うのか? 父親との仲も良好ではない様子。祖父の謎の長生き感を観る限り人間ではない一家である可能性もゼロではないですね。タイトルの「悪魔のいけにえ」を見るに祖父に生き血を捧げることがメインなのか? とも考えたのですが、あくまでそちらはおまけな感じもしますし……。もしかしたら全体的に趣味なのかもしれない。趣味なら納得だ。
……趣味でこんな効率悪いことするの意味不明過ぎて怖くないですか!?
みたいな、考えれば考えるほどわからん過ぎて怖いという原初の恐怖を体験できます。もちろん上記に書いたことは割と私の妄想と想像だらけなので実際は不明です。別に正解も必要ありませんし。でも、怖い想像とかをふくらませる情報の出し方をしているなあと舌を巻いた次第でございます。
ついでに言うと若者サイドの行動も微妙に意味がわからなくて面白いですね。車椅子の青年・フランクリンの親戚の家に行って遊ぶ会のようですが、よくあんな足場が悪く、しかも男女比的にも気まずそうな状況の会に参加したなフランクリン。普段から仲良しなのかな。説明は不足しているがなんかこういう状況なんだろうなあとふわっと理解させてくるのが好きです。
書いている途中に思い当たった余談なのですが、もしかして、古今東西のホラー映画をパロディしていることで有名な名作ホラーコメディ映画「キャビン」の、男女グループが山の中の朽ちた別荘に行く話(そして道中に寄ったガソリンスタンドで意味深なことを言われる)という場面、本作が元ネタだったりいたしますか?
気になったので調べます【検索中】調べました。どうも違うみたいです。「死霊のはらわた」の方らしい。そうなんだ……そっちもリバイバル上映お願いします本当に。
細々な不気味演出
本作、丁寧に不安を煽る場面がたくさんあって素敵です。いくつか挙げますと……
・ガソリンスタンドで車を拭く布巾が妙に内臓みたいな風合い
・ガソリンスタンドで買ったバーベキューが肥満体の人間の指みたいで不気味(もしかしたら本当に指だったのかもしれない)
・骨コレクション(肉は削いで加工したり食べてしまったりするから骨ばっかりだったのか)
・人間の笑い声かと思ったら鶏の鳴き声だった
・発電機の音とチェーンソーを吹かす音が似ていてイヤ
などなど。
ジャンプスケアに頼らず舞台装置で恐怖を描くの、あまりに素晴らしい。
悲鳴に関する新たな発見
人間の悲鳴って、日常生活を普通に過ごしていたらそうそう聞くことないじゃないですか。本作、間違いなく日常生活の数年分に相当する女性の悲鳴を聞くことになる展開があるんですよね。主に後半の、サリーが家族に捕まるまでの追いかけっこと捕まったタイミング以降あたりです。「悪魔のいけにえ」に含まれる女性の悲鳴は日常生活の数年分だぜ(推定)。
正直あの辺りの展開については冗長さと過剰さもあるのですが、あの悲鳴を重ねに重ねた演出により、私鑑賞中に冷や汗が止まらなくなった上、本格的に気分が悪くなりました。挙げ句に食欲もなくなり、鑑賞後は青い顔で蕎麦を啜るしかございませんでした。鼓膜に焼き付いて離れない悲鳴、こういう恐怖の形もあるのだなと気づき新たな発見となりました……。予想はできる展開での悲鳴連続再生のためジャンプスケアではありませんし、別にグロテスクさも衝撃も強くありません。なのにここまでダメージを食らうとは。あの瞬間は確かに「早く終わってくれ、助けてくれ」と思いましたから。この映画によってサリーの追体験をしてしまったのやもしれません。
最後、サリーの悲鳴が笑い声に変わって、チェーンソーと踊るスカーフェイスで物語は幕を閉じるわけですが、映画を観るまではなんとも思っていなかったはずのチェーンソーの音ですら悲鳴のような笑い声のようなとにかく不気味なものに感じてしまって、完全にやられたなあと。
間違いなくいい映画体験でした。視界の不快さより、聴覚の不快さ(しかもジャンプスケアではない箇所)にダメージを喰らう映画を観られるとは。感無量でございます。
映画「悪魔のいけにえ」の感想でした。
名高い名作、やはり侮れない。ぜひ今後ともこの手の金字塔をリバイバル上映していただきたいものです。それはそれとして余談で出しました「キャビン」もどこかでリバイバル上映していただけないでしょうか。かつてあの映画を鑑賞した頃の私はホラー映画なんてほとんど観たことがございませんでしたので、今ならもっと楽しめるはず。
映画を観る本数が増えれば増えるほど、これから観る映画も、リバイバル上映される往年の名作も、楽しむ幅が広がるのかなあと思うとワクワクが止まりませんね。映画最高!