チネローテル 映画感想ブログ

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【映画感想】ボディビルダー(ネタバレ有)_それでも期待を辞められないのか?

狂気という言葉には、魔物のような魅力があります。創作だからこそ、安心して享受できる最たる感情めいたものの一つでしょう。狂気を題材にした映画は数知れず、言葉の強さゆえに過激なものを連想してしまう、期待してしまうのも多少の仕方なさがあると感じます。

覚えていてほしいなら。見てほしいならもっと“何か”を! と願ってしまう私は、それこそかつて彼を傷つけたような残酷な人間の一人なのでしょうか。

 

映画「ボディビルダー」の感想です。

簡単あらすじ

アメリカで祖父の介護をしながら、一流のボディビルダーを目指し日々トレーニングに励むキリアン・マドックス。しかし彼の大会における成績は芳しくなく、精神も不安定な側面があり上手く行かない日々が続く。それでも夢を諦められない彼は自らを追い込んでいくが……。

※上記は、筆者チネローテル大家によるオリジナルのあらすじです※

Filmarks短評

評価:★★★(星3)

※軽めの暴力描写・性描写の示唆があります

ネタバレなし感想

 

■知らない世界が眩しく見える

私は正直、ボディビルという競技に詳しくはありません。存在は知っていて、インタビュアーが選手に密着する番組などを偶然目にしたことはあります。過酷な体重制限やトレーニングを重ね理想の肉体を作り上げる努力を厭わない凄まじい競技である……といった認識です。かといってその後もボディビルの大会を積極的に視聴したことはなく、強い興味を引かれることはありませんでした。

けれど、そんな自分にとってもこの映画におけるボディビルは確かに輝いて見えました。

冒頭の神秘的にすら思えるライティングの中、勇ましいポーズを取るキリアンの姿。作中に登場するボディビルダーたちの姿。スターとされるボディビルダーの舞台。どれも確かに輝いていて、キリアンの観ている視点を追体験しているかのような臨場感があったと思いました。知らない世界を見られるよさが、映画の大きな魅力の一つだなとしみじみ感じた次第です。

 

■実在性を伴った演技

この映画を語るにあたって外せない部分は、間違いなく主演の方の熱演です。プロと思しきボディビルダーの方と並んでも大きく印象が異ならない、違和感の出ない鍛え方は凄まじいの一言。ただ、もちろんプロの方と並ぶと差が出てしまう部分はあって、けれどそれがしっかりキャラに組み込まれている。その上肉体だけでなくポージングまわりでもアマっぽさを出されているのがいいなあと。

ボディビルに関わる部分はもちろんなのですが、一番自分がグッと来たのは、ああ~こういう人いるな……感。詳細はネタバレの方にて語りますが、あのレストランのシーンは実在性がすごすぎて口の端がヘンな形に歪んでしまいました。マジで……。

 

ネタバレあり感想

注意
ここから先は、映画「ボディビルダー」のネタバレが含まれます。
ご覧になる際はご注意ください。

 

 

 

自己顕示欲とリアリティのある凡庸さのアンバランス

キリアンは、何者かになろうとして、結局なれない男です。

この「何者かになろうとする」感が妙にリアリティがありすぎるというか、なんというか中途半端と言いますか……よく言えばとても人間らしいのですが、悪く言えば映画作品というエンタメとして考えるにはギリ平均過ぎる、キャラが立っていないと表すのがいいのかなと。

本作ではキリアンがボディビルダーになろうとして努力を重ね、大して報われないまま話が終わっていきます。これが本人にはどうしようもできない不幸ならば諸々考える余地はあるのですが、正直だいぶ自業自得感が否めません。

まず、理想の肉体の構築にステロイドを多用しているところから始まり、この時点でだいぶ「その前にやることあるんじゃないの?」という気持ちになってしまう。行き詰まっていることの表現なのかもしれませんが、本人の知能があまり高くない印象があり、考えなしにやらかしているだけなんじゃ……と考えてしまう。というのも、キリアンは自らの家族を侮辱されたと(かなり身勝手に)判断した結果、他人の店をめちゃくちゃにするという暴挙に走っています。キリアンの考えなしエピソードはここにとどまらず、デートに誘ってくれた相手の前で自分だけしかわからない話題をマシンガントークする(ここの演技は本当に見事)とか、憧れのボディビルの選手に一種の脅しみたいな――人を殺して自分も死ぬという記載のある――手紙を送るとか、怒りに任せて見知らぬ人の車のガラスを頭突きでぶち破るとか、なんというか質の低いチンピラみたいな……。かなり衝動的に動いています。そしてそれは生来の性質や性格だけでなく薬のせいもあるのではと。

副作用の都合でステロイド使用禁止の大会も多い中その手段を取ること事態、そもそもボディビルへの向き合い方として正しいのか、みたいな話もありますし……。痛みをごまかすためにステロイド以外の薬も服用しているような描写もありましたし。カウンセリングを受けているにも関わらず改善の兆しもない。意思もない。

これらをボディビルへの狂気と断じるにはちょっと要素の量が微妙です。狂気に駆られると表すには、過程の描写が足りないような、キャラの掘り下げが分かりづらいような。そして別に言うほど狂気でもなんでもない。最後は結局、彼は殺しまでに手を染めることはありませんでしたから。ここの葛藤がある意味人間らしく、けれど「ああその程度なのか」という、残酷な落胆につながる。

あらゆるキリアンの行動に対する「なんでそんなことするの?」の疑問の推測が「まぁカッとなっちゃったんやろなぁ……」という判断に行き着いてしまうのはさすがに問題なのでは。

それから警察はキリアンのことをさっさと逮捕したほうがいいと思う。立派な犯罪者予備軍なので。なんでしれっと釈放されてるんですか。こんなムーブしているのを放っておいたら、考えたくはないですが、差別を助長する存在になってしまいますよ……。

 

 

純粋な疑問として、アリなの?

キリアンが憧れたボディビルダー、ブラッド・ヴァンダーホーン。キリアンはブラッドに対して厄介過ぎるファンレターを送り続け、その行動が(なぜか)功を奏してブラッドに会うことが叶います。これはキリアンにとって夢のような話だったはずなのですが、一体どういう流れがあったのか、ブラッドはキリアンに不同意の性的な行為を行ったことが示唆されます。

え!? そういうのアリ!?

おそらく物語としては、(あまり好きな言葉ではありませんが)男らしさの最たるものであるボディビルという競技に誇りを持っていたキリアンの心をへし折る行為をブラッドが行った……みたいな意味合いがあるのかなと推測したのですが、こんな、実在の競技で……変なイメージが持たれかねない描写を盛っていいんですか!? プロのボディビルダーである役者さんにこういうことをやらせていいんですか、という驚きがありました。

いやその……それを言うならそもそもボディビルダーを目指すキリアンがチンピラ並暴力男なのはいいのかよとか、そういう話にはなるんですけれども、その、憧れのボディビルダーが実はファンボーイを“喰って”しまうような男だった、という流れがアリなんだという衝撃がすごくてさすがに言及せざるを得ませんでした。さすがにイメージダウンが過ぎる! まさかあるあるなんですか……? そんなことないですよね?

私としてはちょっと……やりすぎというか、もっと別の描写の仕方があったんじゃと感じてしまいました。確かに衝撃的ではありますけれど、短絡的といいますか。いわゆる「あぁ~こういう展開ありそうだけどさすがにやってほしくないな~露骨すぎるし」みたいな類の描写だと考えていたもので。嫌な予感はしていたんですよ、あの腹筋の触り方の映し方あたりで。当たってほしくない予想が当たってしまった結果となりました。

個人的にはもっと別の方向性でキリアンの心がへし折られるさまを見たかったです。ここに関してはキリアンちゃんと訴えてええからね? アメリカは訴訟大国じゃないんですか。もしかして同意だったのか……? 分かりませんが……。

 

忘れられてしまう

キリアンは人間らしい。短絡的な部分や、凶行に走りきれない行動や葛藤ひっくるめてそう思います。けれど、やはり足りない。審査員が彼のことを覚えていなかったと同じで、誰からも忘れ去られるでしょう。

ラストシーンはもう一度ボディビルに向き合うことを決めたキリアンの意思表示、と判断しました。希望のある終わり方に見えました。ですがあの感じだとステロイド、多分使い続けますよね。腫瘍があるのに。心筋梗塞も一瞬起こしかけていたと記憶しています。これ遅かれ早かれ死にませんか、彼?

祖父も、悲しいことですがあまり長生きするようには見えません。両親も亡くなっています。恋人もおらずバイト先もクビになり、カウンセリングの先生と今後会うかもわかりません。どこかで急死して誰の記憶にも残らず、なんの記録にも残らず彼は死んでいくのでしょう。

でも、まあそんなものなのかもしれません。どこにでもいるかもしれない、ちょっとキレやすい何かとこじらせた若者を主役にした、そういう映画だったという話なのでしょうか。彼に勝手に期待し勝手に落胆し苦言を呈した私も、いずれ銃を突きつけられる側になるのやもしれませんね。

それでも私は、彼らに勝手に期待するのを辞められないのでしょう。

 

映画「ボディビルダー」の感想でした。

人物名を確認するために公式サイトのSTORYを眺めたのですが、「社会の不条理と孤立が彼の精神を蝕んでいく」との記載に首を傾げています。言うほど不条理か? ではここで本当の不条理をお見せしますよ。それこそ宣伝文句に使われている「JOKER」とかどうですか。

と、ここまで考えて、事前に若干情報が流れてきていたのも悪かったのかもと気づきました。ボディビルダー版JOKERという宣伝文句は認識していましたゆえ。

先行して要らぬ情報を食べてしまったがための歪んだ期待だったかも。吐き出せ! 今すぐ!!

 

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