チネローテル 映画感想ブログ

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【映画感想】この本を盗む者は(ネタバレ有)_努力の先のハッピーエンドって、救いだ

私は、有り体に言えば変な子供でした。空気を読むのが苦手だったり、周囲に馴染むのが得意でなかったり。自分が変だという自覚がありながらも、行動の正解がわからなくてずっと空回りをし続けていました。

そんな変な私のことを受け入れてくれたのが、本。物語でした。本は文字さえ読めればその世界に入り込めます。クラスに溶け込めない私のことを、登場人物たちが導いてくれて、たくさん知らない世界を見せてくれました。私は図書館に入り浸りあらゆる物語を読み漁りました。「怪人二十面相」「怪談レストラン」「ハリー・ポッターシリーズ」「エラゴン」「おーい でてこーい」……。そしてふと思います。私も物語を作ってみたい! そうやって拙いながらもテキストを書いて、こっそりどこかに公開したり、投稿したり……。

そんなことをしていたら、いつの間にやら見てくれや立場の上だけでは大人になってしまいました。今でも自分の変さと付き合うしかなくて、慣れない仕事に集中力を四散させていたり、周囲に迷惑をかけて謝り通したり、人付き合いで失敗して自分の軽率さを恥じたりとダメダメエピソードは山程あります。だからこそ今もこうして映画を観たり小説を読んだり書いたりして、ずっと物語に救われ続けています。

そんな大人にとって、この作品はあまりにも眩しくて。

 

個人的本年ベスト級です。

映画「この本を盗む者は」の感想です。

簡単あらすじ

書物の街・読長町に住む、女子高生の御倉深冬。彼女の曽祖父は「御倉館」と呼ばれる巨大な書庫の創設者。しかし過去の書物盗難事件により御倉館は固く閉ざされていた。だがある時、深冬の前に真白と名乗る謎の少女が現れ、御倉館の本が盗まれたことを告げる。すると、「ブック・カース」――御倉館の本が盗まれた時に発動する呪い――により読長町が異世界へと変貌を遂げてしまう。町の呪いを解くため、深冬は真白とともに本を盗んだ犯人探しに(なし崩し的に)奔走する!

※上記は、筆者チネローテル大家によるオリジナルのあらすじです※

Filmarks短評

評価:★★★★★(星5)

 

ネタバレなし感想

 

■魅力的なキャラクタービジュアル

予告からはそこまで窺い知れなかったため驚きましたが、非常にキャラクターが可愛らしいです。時にデフォルメ、時に感情をあらわにする瞳の表現、時にシリアスさと、場面場面によってキャラクターの表情がコロコロ変わり観ていて飽きません。

キャラクターデザイン自体のキュートさはもちろんなのですが、アニメーション表現としてかなり好みでした。表現の方向性としては少し平成初期らしいような雰囲気もある一方で、今風のキラキラしたキュートさも取り入れられており凄い。止め絵より明らかに動いたほうが素敵です。

序盤は日常系アニメの風合いがあるため、観ているだけで可愛くてハッピーになれるキャラクターというのは大変目の保養です。ありがたや。

 

■ぶっ飛んだ設定と楽しい世界観と、盗みについて

これは原作の優れた点ともいえるのですが、「ブック・カース」という設定があまりに素晴らしい。本それぞれに呪いがかかっており、盗んだ人間を読長町から出さないため、盗んだ本の世界に狐の姿で閉じ込めてしまう……という、本好きからしたら正直夢のような呪い。そのためこの映画は異なる本の世界に飛ばされるという筋書きになっています。なんて素敵! ただし盗んだ人間は前述の通り物語の登場人物にはなれません。残念。

それ以前に本を盗むのはダメ、ゼッタイ。いやそもそも物を盗むなという話なんですが。「ブック・カース」が気になるのはわかるけど、不法侵入ですからね!

考えてみれば、盗みを題材としているのって本屋の万引き被害の話が関係しているのかもしれませんね。世間でずっと話題が出続けていますし、そこの問題提起的な側面は強そうです。一冊本を盗まれるだけで経営が傾く本屋も多いと聞きますし。万引きというか盗難ですよ盗難。許しがたい。

本を愛する者として本屋が減っていくのは全身の肉という肉が引き裂かれる思いです。映画館が閉館するのも全身の血をカラカラになるまで抜かれるような思いがします。ゆえに、対価を払って! お願いだから!

 

ネタバレあり感想

注意
ここから先は、映画「この本を盗む者は」のネタバレが含まれます。
ご覧になる際はご注意ください。

 

 

 

そばにいてくれてありがとう

本作における何よりの魅力のひとつであり、私に刺さってしまった最大の要因は、真白の正体です。彼女は、入院する母親のために深冬が生み出した創作の存在。つまり実在しない物語の中のキャラクターです。そんな彼女がブック・カースのせいでピンチになった深冬のことを無条件に助けてくれる。

真白は深冬のことを幼い頃から知っていて、御倉館目当てで近づく人間が多いせいか警戒心マシマシで友だちもできず、本をあまり好きではないゆえか本に縛られる御倉の血をどこか鬱陶しく思っている、そんな深冬のことをきっとわかっていて、笑顔を向けてくれて、守ってくれる。

これってあまりにも救いじゃないですか。

真白は幼い深冬の理想あるいはヒーロー的な存在です。だからこそ深冬を助けてくれるのは当たり前かもしれませんし、そういうふうに作られたといえばそうかもしれません。けれど祖母からのトラウマ的プレッシャーや周囲との馴染めなさに苦悩する深冬を……自分が物語を作ることが好きだったらしいことすら忘れてしまっていた彼女のことを助けられるのは、かつて自分が作った理想のヒーローなのだ、という構図が本当に好きで。

幼い頃は何でも楽しかった、何でもできる気がした、そんな頃に描いた「むてきでさいきょうのひーろー」が今の深冬を助けてくれるなんて、すごくこう、救いで、いいなぁと心に響いてしまいました。

そして深冬は物語の力を信じるようになった。紡ぐ側になった。そうすれば必ずまた真白に逢えると信じていたから。ああ(感涙)。信じる力と深冬の努力が実を結んだハッピーエンドなんて、そんなの大好物に決まってます!

 

物事に対する価値観

深冬の祖母は、本に異常な執着を持っていました。本の価値の高さを評価していたのですね。そんな価値のあるものを独占することで満足感あるいは優越感を得ていたのでしょうか。ですが、おそらく祖父や、ラストの深冬や深冬の父はそのことを間違っていると考えるはずです。本は共有されるべきもの。皆で読むからこそ価値のあるもの。そもそも本は誰かがいなければ書くことができませんし、ある本から着想を得て新しい本が生まれることなんてしょっちゅうございます。

本を読む機会を奪ったから、お前も盗む者だ! という決着は膝を打ちました。同じ物語を共有して感想を言い合うのがNGなんてナンセンスですもんねぇ! このあたりは映像としても観ていて面白かった。ヒーローものの全員集合激アツ展開みたいな、勝利確定! 的な。こんなんみんな好きですよ。複数の世界観がごちゃまぜになっている都合で絵面はとても混沌としていましたが、そこもまたヨシ。

 

この本の価値まわり、近年の一部の娯楽トレーディングカードや、ファン向けの限定品のことを私は連想しました。そのモノを愛しいものだと、好きゆえに、楽しむために集めているという純粋な気持ちで購入する人と、そのモノには価値がある、金になるからと購入する人の対比というべきでしょうか。本に限らず、外面の価値ではなく内面の本質を好む人々にモノは渡るべきだと常々思います。

 

 

完璧ではなくとも、それでも好きって言いたくて

この作品は駆け足です。テンポが早く、展開も目まぐるしく変わり、説明も不足している部分が多々あります。それこそ叔母あたりとか、呪いの成立云々とか、各世界の話ももっと詳しく聞きたいとか。完璧な映画化作品かと問われると絶対にそうとは言い切れない部分もあります。

けれど、だとしても、それを含めて私はこの映画が好きです。

ここってどうだったんだろう、と気になった方々はきっと原作にたどり着くはずです。かくいう私もそうでした。これから読むつもりなのですが、おそらくこの映画を観ていいなと思った方々はそのような手段を取られる場合が多いのではないでしょうか。

こうやって深冬の描いた物語が手に取られるの、なんだかいいなぁと。メディアミックスの導線として一つの正解な気がするんです。ベストかはさておき、本作においてはしっくりきました。原作本を読むのが楽しみです。読んだうえでもう一回観られたらなぁ。検討します。ロングランしてほしい。

 

 

映画「この本を盗む者は」の感想でした。

予告自体では正直全く期待していなかったのですが本当にいい作品でした。中盤以降のシリアスパートから、特に好きでしたね。キツネの石像の演出、さすがに怖すぎませんか?

 

真白ちゃんファンアート置いておきます…

kononusu.com