チネローテル 映画感想ブログ

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【映画感想】ナイトフラワー(ネタバレ有)_子供を理由に、悪事への加担を余儀なくされるようなやるせなさ

突然ですが、皆様辛いものはお好きですか。

私はものによります。生姜なら生でもすりおろしでもいくらでもいけますし、わさびなら大元を齧ることだっていといません。

ですが、唐辛子だけはそうはいきません。いくら食べても慣れることがなくてですね……。その理由は、辛さがじわじわと痛みに変わるからではないかと考えています。これは、そんな痛みをもたらす映画ではないかと感じました。

 

映画「ナイトフラワー」の感想です。

簡単あらすじ

娘と息子、二人の子供を抱えるシングルマザーの夏希は金のなさからどん詰まりの日々を送っていた。偶然から麻薬取引の現場に遭遇し、子どもたちのために麻薬の売人として生計を立てることにする。同じく金に困った格闘家の多摩恵と協力し、少しずつ気持ちも生活も前向きになっていく。しかし彼女たちのやっていることは間違いなく誰かを不幸にするもので……

※上記は、筆者チネローテル大家によるオリジナルのあらすじです※

Filmarks短評

評価:★★★★(星4)
※暴力描写があります

 

ネタバレなし感想

■舞台の質感

この映画を鑑賞した上で最も記憶に残ったのは、質感です。実在感、存在感とも言うべきでしょうか。

主人公たちが住まうアパートの散らかり感。洗い残しのある台所、整理する間のない雑貨類、大量の封筒、息子のおもちゃ……。すべてを言葉や出来事で語らずとも雰囲気で生活感がわかるのが凄く好きでした。

この映画は全てを言葉で説明する作品ではなく、割と観客の想像に委ねる部分が多いのですが、舞台が如実に登場人物の生活を語るのがいいなあとしみじみ感じる場面が多かったです。アパートだけではなく、雑居ビルとか裏通りとか、あとは待合室など。映画のためにセットアップしたというより元々そこにあったみたいな空気感が好きでした、

私は原作未読ですが、こういうものを映像として観られるのは実写化のいいところだなあと感じました。

 

■印象的な陰影

優れた舞台に色を添えるのが陰影。昼と夜が移り変わる作風なのもあり、光の使い方が印象的でした。主人公たちの心情を表しているかのようで。影の色が濃い時は状況としてもやはり落ち込んでいて、明るく晴れやかな時は幸せな場面で。特に家族のやさしいシーンの光の使い方は記憶に残っています。

なんといいますか、空気感に色がついているような。同時に主人公以外の家は割と彩度が落ちているような気がしました。

 

■俳優陣の演技について

私は役者さんに詳しくはないので、いつも新鮮な気持ちで映画を観ていることが多いのですが、多摩恵役の俳優さんの演技がすごく好きでした。ぶっきらぼうさと優しさ、不器用さが出ていて。劇中で激しいアクションシーンがありますが、あの場面は息を呑みました。あれは一体どうやって撮影したのだろうかと……。

どん詰まりの母親・夏希もいい。どん詰まり感が出ている。どうしようもないけどどうにもできない自分への許せなさとか無念さ、惨めさみたいなものを感じました。そして子役の方々ですよね。あの子たちはこの物語の最重要キャラクターであり、とにかく愛らしくなくてはならない。その役割をしっかり果たされていたと思いました。特に娘さんの健気さは見ていて特に辛いものがありました。

いわゆる悪側の俳優陣も、またなんというか……胴に入っていると言いますか、それっぽさがすごいと言いますか。派手な演技ではないからこそじわじわと効いてきます。

 

ネタバレあり感想

注意
ここから先は、映画「ナイトフラワー」のネタバレが含まれます。
ご覧になる際はご注意ください。

 

 

 

罪と責任の所在

この物語の主役は夏希と多摩恵です。夏希の子どもたちを含め、彼女たちは疑似家族のような様相になっていき、仲を深める様は微笑ましく見ていられます。

ですが、彼女らは決してクリーンで心から応援できる存在ではありません。なにせ麻薬の売人ですからね。犯罪者です。

けれど子供という守られる存在が物語の主軸に置かれている。夏希が麻薬の売人をやる理由は子どもたちのため。そう言われれば、応援したくなってしまう。子どもたちに罪はありませんからね。しかもまぁ、この子どもたちが可愛いもんだときた。娘のバイオリンのエピソードは涙無しでは見られませんよ……。でも、それはそれこれはこれ。報いを受けないのはどうなん? と思ってしまう私もいるわけです。一番悪いのは夫かもしれませんし、そもそも夏希だって本当に何も悪くないかどうか判断がつくほどエピソードが明かされてはいませんからね。多少は仕方がないとはいえ、息子の暴力を止められないし……。

ですが、この物語は主人公たち家族に優しいです。今まで苦しかったんだからここからは上向きになるよ、と言っているような。そんなこと許されていいわけないのですが。そのためか彼女らのやったことで不幸になった人たちの影が限りなく薄いです。過程ではなく結果だけがぽつねんと提供される。息子が暴力を奮った結果、同じ保育園に通う子供が大怪我をしました。夏希が薬物を売った結果、中毒状態の少女が死にました。だいぶ淡々としている印象です。うーん、やりかたが憎い。

裏社会の皆様がぱっと見妙に優しいように描かれているのもそう。彼らは悪です。間違いなく悪。人は殴るし、容赦なく殺します。でも彼らはこの物語における味方サイドではあるから妙に人間味があるんですよね。売人らを仕切るドンである、見るからにマトモではなさそうな青年が「あんた母ちゃんなのか、すげえなあ」と夏希を養護するような、あるいは若干マトモ側っぽいような言動や行動を取る。なんですかね、明らかに悪い身内がいるけどやむもやまれぬ事情を知っているから肩入れしてしまう……みたいな感覚になれてそこが面白い。

まるで彼女らの悪事に加担しているみたいだ!

 

拳銃

改めて拳銃の存在の大きさを思い知りました。

アクション映画や洋画を観ていると重火器が登場することは慣れっこですが、この作品の舞台は日本。しかも前述の質感がもたらす、どこかにありそうな(あっては欲しくない)風景が出てきます。多少治安は悪いですが……。

なので、拳銃がゴトン! と唐突に登場した瞬間、思った以上にぎょっとしてしまいました。あれ一体どういうルートで手に入れたんでしょう。元刑事だからといって、いくらなんでも数百万でどうにかなるモンなんでしょうか。ここが妙に浮いていて、ゆえに衝撃的でした。

だからこそ、出てくる以上、必ずどこかでぶっ放されるわけです。拳銃ですからね。壁に飾ってニコニコするわけじゃありません。なにせそれを手にした人物が自分の娘を喪った奥様なのだから、その上夏希たちの居場所も知っているのだからもう大変です。この奥様ののっぺりとした演技も見事でしたね。どうして裏社会の人間より覚悟が決まっているんだ……。

銃の存在があるからこそ、幸せな場面が続いてもどずっと緊迫感が途絶えない。あの音を想像してしまうんですよね。いつ誰が撃ち殺されるか分からぬまま鑑賞を続けるという状況が本当にしんどくて、何よりいい要素として置いてあったと感じています。

 

男性の存在

この話、男性という存在の描き方がかなり極端な気がしました。言葉を選ばないなら「とんでもない悪」か「役に立たないか」の二択というか。夏希は多摩恵と疑似家族になり、立ち回りとしては「母親や子供を守る」という父親のような形を想像させます。借金こさえるような父親は当然必要ありませんからね。そして黒社会の人は記憶の限り全員男性と認識しました。時に優しさっぽいものを見せることはあれどこれらは悪側です。

そして残酷な言い方ですが役に立たない側。これは多摩恵の幼馴染らしい池田のことを指します。彼は優しく、多摩恵と同じく母親に捨てられたという経歴を持っており、多摩恵のことを放っておけないという立ち位置です。けれど結局、金稼ぎをするために売春をする多摩恵のことを助けたりはせず傍観していました。試合の後、多摩恵を案じてリングに上がったのも夏希でした。最後に裏社会に目をつけられ命の危機に陥ったところでようやく抵抗をしますがおそらく彼はあのままどこぞに埋められるか捨てられるかするのでしょう。抵抗をしたことだって多摩恵は知らないままですし。間違いなく不憫ではあるのですがね……。本当に多摩恵のことが大事なら他に取れる手段があったかもしれない。でもそうはならなかった。多分、多摩恵の方が強かったから。そして夏希も強かったから。池田の前では泣かなかった多摩恵が夏希の前では涙を見せたのもそういうことなのでしょう。難しいね……。池田以外にも、マダムの夫もこちら側に当たります。妻に任せきりとはいえ幾らなんでも不干渉が過ぎるでしょうよ! 描かれていませんが娘の死に対して夫はどのような行動をしたのか。妻を攻めるだけなのでしょうかねえ。

男性=女性より弱いか、どうしようもない理不尽か、という二択なの残酷ながらも興味深く感じましたね。

でも池田のこと好きですよ。悪いやつじゃないんだ。ただ少し強さが足りなかっただけで……この世界では致命的だ……。

 

 

ナイトフラワーが明るく輝く場所とは

みんなで旅行に行こうと抱き合って、ついに咲いたナイトフラワー。まるで彼女たちの新たな門出を祝しているようです。

と、「よかったねぇ~~」と穏やかに見てはいられません。なにせ近くには正気を喪っている、拳銃を持ったマダムが潜んでいる。すでに銃声は響いた。いやいやこれで何事もないかのように話が進むのは嘘だろうと、まあ思ってしまいますよね。さすがに肩入れしすぎだよ!

私の解釈としては、皆死んじゃったんだろうなあと。いくら多摩恵でも拳銃には太刀打ちできません。皆まとめて撃たれて、マンションはきっと血の海になっていることでしょう。でもその場面は見せず、ただ夜にしか咲かない花がようやく花開いた場面で物語は幕を閉じる。

そうなんですよ。あの花、夜にしか咲かないはずなんです。昼間に咲いてるなんておかしいんですよ。夜に咲いて、そのまま枯れて、昼間には見られないっていう話だったんじゃないんですか。

楽園の夢は、さぞ美しかったでしょうけれど。もう肩入れはここまでです。

やるせない話だなあ。いいやるせなさだ。

 

映画「ナイトフラワー」の感想でした。
個人的にかなり刺さったので長くなってしまいました。

そういえばこの映画の観賞後、無性に辛いものが食べたくなってトムヤムクンを食べました。スナップエンドウが入っていて意気揚々と噛み砕いたところ、覚えにない味ととんでもない辛さに吐き出しました。よく見たら青唐辛子でした。

ああ…

 

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