皆さんは博打など、お好きですか?
何を隠そう私、博打が大好きです。とはいえ競馬や競輪、競艇パチンコなどギャンブルらしいギャンブルには手を出したことはございません。なぜなら稼いだお金をすべて突っ込み“当てる”まで挑戦を続け、破産することが目に見えているからです。なのでここで私が好きと言っているのはあくまで博打の要素、という話でございます。実際のギャンブルではございません。
急に何の話かと申しますと、映画館でほぼ情報を仕入れずに鑑賞することは、まさしく博打ではございませんかということです。情報唸るこの世の中で、最低限の情報のみを頭に映画館のスクリーンに赴く。その行為自体がそこそこなハイリスク=博打と感じる部分があります。
実際に正直な話を申し上げますと、私の好みに刺さり、かつエンタメ的に凄いと思える作品は年に十本ほど出会えればよい方かと思います。ただ映画館に通うこと自体が私にとっては果てしなくプラスなので映画館でどのような映画を鑑賞しても「損した!」という気持ちには一切ならないので、特に問題はないのですが。
ですが、出会えたら嬉しいですよね、こりゃあ面白いぞ! と諸手を上げて踊りだしたくなるような作品に。
その一本が、今回ありました。
映画「YADANG/ヤダン」の感想です。
簡単あらすじ
※上記は、筆者チネローテル大家によるオリジナルのあらすじです※
Filmarks短評
映画『YADANG/ヤダン』のレビューを書きました! https://t.co/uyn87MinDU #Filmarks #映画
— チネローテル大家 (@cinerotel) 2026年1月24日
軽さのある映画ながらも骨子はしっかり かなり好きでした 良作!
評価:★★★★★(星5)
※事件に関する性描写及び薬物乱用描写につきR15+
ネタバレなし感想
■NO必要以上の硬派、YES圧倒的とっつきやすさ
本作、予告や公式サイトを観るとかなり硬派なアクション・ノワール映画感が強いと思うのですが実際は違います。韓国の刑事ドラマ映画「ベテランシリーズ」にもある、軽妙なやり取りやテンポのよさ、コメディチックな雰囲気など、いい意味で非常に軽いノリで鑑賞のできるとっつきやすい作品です。
てっきり重々しい空気の中で色々な展開が起こるんやろな~と思ったのですが、冒頭の雰囲気の明るさにかなり面食らいました。とっても見やすいです。
主人公の情報屋ヤダンのイ・ガンスがまたいいキャラクターをしていまして。なんというか、いつか足元を掬われそうな若干危なっかしい明朗お調子悪ガキ感と心からご主人を信頼する元気な犬っころの要素を併せ持ったような……。冒頭の雰囲気はそれこそ見る人が見れば腹の立つチンピラのそれなのですが、自分を救ってくれた検事のことは心から信頼している。ムーブは軽いあんちゃんなのですが憎めないキャラクターなのですよね。ゆえにこの後の展開が色々沁みると言うか、無限に味がするといいますか……。他のキャラクターもいいです。詳細はネタバレの方にて。
事件の構成も描写も分かりやすく、見ていて「あれが伏線だったのか!」とちゃんと納得できます。大事。とにかく小難しくないんです。エンタメ作として本当に素晴らしい。
もちろんR15+描写はあるのでさすがにお子様にはオススメできませんが、事件を構成する要素でしかないので描写はメインではございませんゆえご安心を。麻薬も扱っている以上対象年齢が上がってしまうのは仕方ない。それに大事な部分はモザイクで隠されていますし、見るに耐えないシーンはほとんどありませんので……。
超余談でございますが、R18+にしないとあのあたりのモザイクは取れないのだなあと学びました。「ミッドサマー」といい「シェイプ・オブ・ウォーター」といい「アグリーシスター」といい、その手のシーンのモザイク・ぼかしで集中力が削がれてしまうのですが仕方ないのですよね(本作は該当シーンが少なかったのでそこまででもないですが)。ただ内蔵がバラバラヤしている方はそのままでいいの、謎です。そっちがオーケーならあっちだってオーケーでよいのではございませんか、どちらも一糸まとわぬのは一緒で……いや、だめか。つくりものじゃないものな。映像って難しいですね。
■ヤダンは実在する話と、韓国における薬物の話
ヤダンの実在が一番怖くないですか?
冒頭でデカデカと「この物語はフィクションです」記載が出てなにゆえと思ったらヤダンが実在するからなのかと。これはまたなんというか、正義なんてないってことですか? ……結局世の中はバランスということなのですかね。
韓国における麻薬云々の話を少し調べたところ以下のような記事がヒットしました。
韓国では薬物トピックがそもそも大きいのですね。この映画が韓国でヒットを飛ばした理由として、世情はかなり関係していそう。シンプルな面白さはもちろんなのですが。
日本でも、人の集まる場で合成麻薬が配布される事件の話を聞くこともあり身近に存在している印象。邦画としても「ナイトフラワー」や、現在公開中で未鑑賞ですが「万事快調〈オール・グリーンズ〉」など違法薬物や麻薬を題材とした作品は見かけますね。
自分は幸いにも関わることなく過ごしてきた世界の側面ですが、在る影は思っているよりずっと濃いのだろうなあ。
■ご興味あってまだご覧になっておられないのなら
まだ間に合います。どうか劇場へ。
いつも通りこの先の感想は話の展開をしっかり追うことのないマイペース・ネタバレ要素含み・感想ではあるのですが、初見の楽しみを奪ってしまうのは事実なので……。
私が鑑賞した時は朝イチなのもあってかスクリーン内座席がガラッガラだったのでもっとたくさんの方に鑑賞いただきたい。本当に面白いので! 私が情報仕入れていないだけで大人気だったりしますか!?(記事を書き終えるまでは感想も見ないので状況がわからない)
ネタバレあり感想
ご覧になる際はご注意ください。
良・バランス
本作、バランスがとにかく素晴らしいです。
鑑賞者の受ける精神ダメージを必要最低限に抑えていると感じました。
本作は復讐劇も含みます。冒頭の軽快明るいノリから考えられないほど、イ・ガンスはだいぶひどい目に会います。信頼していたク検事に裏切られ、脚を燃やされ薬漬けにされて捨てられて、気づけば三ヶ月が経過していてイ・ガンスは当初のイケイケヤダンの見る影もなくボロボロになって薬の離脱症状で苦しんで、けれど強い意思で薬物の誘惑を跳ね除けついに再起します。
……この一連、本当にテンポがいい。いくらでもイ・ガンスの苦しむシーンを描写しまくることは可能です。割と韓国映画は見目麗しい男を苦しませることが大好きな監督がたくさんいらっしゃる印象もあり(「コメント部隊」「三日葬」「プロット/殺人設計者」など)、そういう方向性になってもおかしくなかったと思います。ですが、落ちぶれシーンはしっかり描写しつつも必要以上に長くせず再起させる。
本作のこのあたりのバランス・スマートさに感心いたしました。観ていて、うわキツイな~と思うシーンがとにかく少ない。けれどシリアスシーンや残酷な展開は必要なぶんだけバッチリ入れる。このバランス感覚が本作の非常に優れた面だと感じました。
キャラ描写が本当に、いい
本作、先述の通り皆いいキャラしております。メインの登場人物を絞っていることもあって「この人こういう感じなんだな~」が分かりやすい。ク検事の頼れる兄貴感から悪役っぷりへの変貌も素晴らしいですし、オ・サンジェの不器用で真っ直ぐな熱血刑事感もいい。薬漬けにされてしまった女優のオム・スジンもステキですし、イ・ガンスの薬物からの更生を手伝ってくれた青年も登場シーンは多くないですがいいキャラしてましたよね。
そして一番はチョ・フンですよ。韓国映画おなじみヤベー目をしたヤベー方。こいつアカン方ですわが一発でわかるの本当に凄い。表情も行動も全てにヤバさが出ている。韓国映画はこのヒトコワというかヒトスリラー描写がズバ抜けています。悪役はヤバければヤバいほど最高ですからね。この方が楽しんでいる会場もまあすごい……。
キャラがよければ、展開で話の魅力は無限大に広がります。
イ・ガンスが一度だけ弱気になり、オ刑事にもうやめようと言う場面があります。事故でオム・スジンと仲間の青年を亡くした後ですね。具体的な描写はないものの、自分を完全ではないにせよ元の状態に戻すため協力してくれた、青年との間柄を察する部分です(もちろんク検事に対する恐れもあるのでしょうが)。青年はオム・スジンとの会話シーンも朗らかな感じで人当たりの良さが伺えます。きっとイ・ガンスの支えの一人だったのだろうなと。相当仲良かったんだろうな……薬抜きを手伝ってくれるなんて相当だもんな……。
あと個人的に挙げたいのが、薬漬けになったあとのイ・ガンスが吃音に悩まされている描写ですね。薬物中毒になったことで神経原性吃音を発症しているのだと思われます(参考:東京吃音改善研究所-獲得性神経原生吃音の特徴について)。細かい点ではあるのですが、冒頭であんなにも軽妙なトークを飛ばしていた彼が結構な頻度で吃音をみせているのが非常にショッキングで、派手ではないものの真に迫る良い描写だなと感じました。薬物によって壊れた部分はすべて元に戻るわけではない。
ライターの話をしてもよいですか?
イ・ガンスがプレゼントしたライターを、ク検事はずっと使っていました。
これ、ク検事は「使えるものは使えるだけ使って捨てる」という心情が、最初からではなかったにせよあったのだろうと、だからこそ、まだ使えるから捨てずに使っていたのだろうなと思います。
心の底ではイ・ガンスを実は大事に思っていたが、状況的にしかたなく裏切ってしまいその後悔の現れ……などではなさそうなのがまたイイですよね。イ・ガンスはク検事の性格をわかっていたからこそ、ああいう大仕掛けを仕組むことができた。そういうことなのかなあと。
でもイ・ガンス側は、心の何処かでク検事を信じたい気持ちはあったのだろうなと考えると、このあたりがかなりしんどくてですね。なにせ作戦の途中でク検事がイ・ガンスを薬漬けにすることを命じたのかどうかを確認する場面がありましたから。もしもの話ですが、ク検事がどこかでイ・ガンスに頭を下げていたら彼が揺らぐ可能性も十分にあったのではないかと思います。
イ・ガンスはヤダンとしての活動で、自身の儲けのために動いていたのももちろんありますが、自らを実の兄と思っていい、と言ってくれたク検事への尊敬と感謝の念は深いものだったのだろうと推測できますから(ただク検事からするとその言葉は割と誰にでも言っているらしいというのが非常にグロテスクなのですが……権力におぼれる前はそうでなかったと信じたいですがね)。
※筆者が勝手にしんどくなっているだけで、別に描写としてはしつこくはありませんのでご安心を。
イ・ガンス、オ刑事とは仲良くやれるといいね……。
映画「YADANG/ヤダン」の感想でした。
現状今年ベストです。これだから映画館通いはやめられない! もう一回くらい観ておきたい気持ちもあるのですが上映劇場も回数も着々と減っている。ど、どうして……。
近頃映画の上映期間短くなっておりませんか? 気の所為ですか? それでも私はただひたすらに通い続けるだけでございます。楽しい博打! 映画館!(語弊)
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