このブログの映画感想記事は、基本的に仕入れる可能性のある事前の情報をほぼ「映画予告」のみに絞っています。意図的に新作の情報は観ないように心がけていたのですが、それでもこの映画の感想からは逃れられませんでした。
SNSにおける多数の否定意見、悪評。本年公開作品の中でも特異な状況に置かれてしまった作品。果たしてその大多数ネガティヴ盛りの感想が適切かというと――もちろん好みかどうかは別の話として――とても適切とは思えない。それが私の正直な印象でした。
映画「果てしなきスカーレット」の感想です。
簡単あらすじ
※上記は、筆者チネローテル大家によるオリジナルのあらすじです※
Filmarks短評
映画『果てしなきスカーレット』のレビューを書きました! https://t.co/guJT48rvfs #Filmarks #映画
— チネローテル大家 (@cinerotel) 2025年12月27日
勿体無さの目立つ映画でした。演出チョイスが時折奇妙だったり、尺の割き方に違和感があったりはしますが、エンタメ作品として一定以上のクオリティは担保されており必要以上に批判されている印象
評価:★★★(星3)
※若干、女性主人公が痛めつけられる場面があります
ネタバレなし感想
■“完璧”に近いアニメ作品と、映画館への足が遠のく今ゆえに
本作を鑑賞した正直な感想は「言われているほど悪い作品では全くなかったし、つまらない作品でもなかった」でした。一定のクオリティはしっかり保たれています。話も原作が「ハムレット」だからというのもあるとは思いますが、筋はシンプルでわかりやすいです。
ですが、この作品は明らかに分かりづらい場面が多くあります。敢えて語らない、音楽で演出する、描写で魅せる、そんな手法を取っているシーンがいくつかあります。私は言葉で語らない作品が好きですし、説明がなく鑑賞者が頭の中で想像する、いわば行間を読む作品も好きです。
しかしそれらが本作において適切に機能しているかと言われると、正直そうではなくてですね……。明らかに説明が必要だろうと思わしきところが曖昧にされ、説明が不要じゃないかと思う場所でセリフ過多になっていたり、ちぐはぐな印象がありまして。
本作の一番の問題は「演出」と「シーンのつなぎ」ではないでしょうか。これが明らかに全体のクオリティを下げている。脚本のツッコミどころもありますが、そういうものはそれ以上にグッと来る場面があれば些末な問題として無視できるものですしね。外連味というやつでございます。ただ問題はそのグッと来る場面が、本作はどうにも選定しづらいというのもまた難しいというか悲しいというか……。
その結果、目立つシーンは謎演出の変な場面。いわば「バズ」の材料になりやすい部分です。いいシーンより、遥かにそちらの方が目立ってしまうんですよね。
本年様々な映画を観てきましたが、アニメーション作品はどれもクオリティが高かったです。わかりやすくて面白くて楽しめる、お手本のような作品がごまんと存在します。その上現在の映画鑑賞の基本料金は2000~2200円。そんな中で本作が選ばれる理由を作れなかったのが、今回の集客の低さの原因なのかなぁと感じました。そして選んだ方もおそらくいい印象より「変」のインパクトに打ち倒されて、結果評判が下がったということもあるんじゃないかなと。
予告もあまり心惹かれませんでしたしね。もっとチョイスすべきシーンは色々あったと思うのですが。
■良い部分が悪い部分になる奇妙さ
本作の3D技術は見事なものです。「死者の国」におけるスカーレットのアクションは目を瞠るものがありました。キャラクターの薄汚れ感などがこんなにも違和感なく、繊細に表現された3Dはあまり見たことがなく驚きました。人物だけでなく背景美術も美しい。
ただ……ただですね、ゆえに、2D部分が物足りなく感じてしまうんです。
「死者の国」の3Dアニメは本当に素晴らしい。ただそれ以外の現代パートは2Dアニメなんです。細田監督作品の2Dアニメデザインはシンプルな絵柄の印象があり、本作もそのような形だったのですが、それゆえに物足りなさが出てしまっていて。2Dか3Dのみに絞っていればここまで如実に差が明らかにはならなかったかと思います。「死者の国」かそれ以外かといったところで、分けている意図は理解できるのですが。今作、2Dの場面で結構重要なシーンが多いので、どうしてここで2Dアニメなんだと思ってしまいました。本当に勿体ない!
それから、3Dアニメのスカーレットがすごく作り込まれている一方で、もう一人の主人公的な立ち位置の聖の3Dの作り込みがあんまりな感じがして浮いてしまっており、そこも気になりました。勿体ないって! 色々シュールになっちゃってるんですって!
ネタバレあり感想
ご覧になる際はご注意ください。
そういうもの、と割り切れるか?
前述の通り、今作は説明……ないし言葉が足りません。そしてシーンのつなぎ方も妙なぶつ切りの印象があります。そもそも冒頭の場面から結構怪しくて、ぼんやりとした視界から誰かが歩いてくるのをスカーレットが見ているという。これは終盤の「見果てぬ場所」につながる門ですべてを終えたスカーレットが聖を迎える場面の切り抜きであることが鑑賞していればわかります。
わかりますが……何?
それを冒頭にチョイスする理由がだいぶよくわからない。別に場面として美しいわけでもないですしね(真っ白な世界にぼんやり人が歩いてくるだけ)。復讐を終えたスカーレットが目にする初めての世界? が印象的だった的な話なんだろうか……? そして極めつけは「死者の国」の説明ナレーションです。生と死、過去と未来が交わる場所、それらは区別されず混じり合っている……的な内容なのですが、なんの説明にもなっていないんですよねこれ……。それを言われると、今後この場所で起こる戦いも死も意味ないのか? みたいな話になりますし。というか、この後出てくるスカーレットはどうも腹を空かせているみたいだし、物流の仕組みもあるみたいだし、この世界なんなん? となるんです。
え、これ……「死者の国」、要らなくない? 別にそれこそ、スカーレットが追放されて別の国から復讐を企てるとかでよくない? みたいな……身も蓋もないですが。
と、まあ、こういうことでして。本作、無限に「それいる?」「それ何?」がたくさんある作品なんですね。私は早々に「ああそういうものなのか」と認識することでほとんどのツッコミ部分を、映画を自然体で鑑賞するためにまあそういうこともあるだろうくらいの気持ちで一旦スルーしたのですが、これは気になる方は本当に気になるはず。というか気になって当然です。その結果展開が頭に入ってこなくなるというのは想像がつきます。
なんでこんなに叫ぶの? 何このエフェクト? どこここ? 何その曲? 誰その人? 軍の人皆死んだの? 人間多すぎない? 人どこ消えたの? なんで一緒に行かないの? なんで奥さんが来てくれると思って待ってるの?
疑問は鑑賞の邪魔になります。雑念は認識のノイズになります。それが本作、かなり多い。これはなんというか、鑑賞者の心持ち次第で評価が変わるなあと。これ、こういうものだと早々に認識できればそこまで疑問が邪魔をしてこないんですよね。私は鑑賞早々おとぎ話みたいなものかな? と考えました。なのでそんなに気にせずに済みましたが……こうやって頭を切り替えるというのはいつもできることではないですし、私も作品によってはできなくて混乱する作品は多々あったので……。
スクリーンを大量に独占して上映する映画で考えておくべき心づもりではないんだよなぁ。
渋谷
なんだったんだ……。
わ、わかりますよ。意図はわかります。過去と未来、あるいはもしもも混ざりあった「死者の国」で、スカーレットが聖の歌う歌をきっかけに、もしもの世界の自分を見て涙するという場面。これ自体はいいと思うんですよ。
でもその……なんで渋谷のスクランブル交差点で、フラッシュモブもかくやみたいな謎のストリートダンスフェスティバルめいたなにかが行われているんですかね……。ミュージカル映画ならまだわかりますけどそれにしては群衆の統率が取れていないですし聖のダンスはなんか……変だし……スカーレットは可愛らしかったですが。
ここダンスにする必要なくないですか? もっとこう、別の世界でショッピングとか娯楽を楽しむ聖とスカーレットが描かれればいいだけの話のような。それこそ看護師やってる聖がスカーレットを町中で助けてとか……。
結局前述の「それ何?」現象なのですが、本当に渋谷は群を抜いてよくわからない。IF世界に入る直前のエフェクト映像も長すぎるし、スカーレットの困惑の叫びも長すぎるし、渋谷世界が終了したあとも謎に聖との心の距離が縮まっているし……そういうものだと認識するしかなかったですが、ここだけは本当に最も意味がわからない。ので、別途言及しました。ここだけは本当に今でも飲み込めません。でも曲は結構好きでした。頭に残るメロディーをしている。
テーマは明瞭
綺麗事かもしれませんが、それでもいいと思いました。未来のために、争いをなくす。周りの人と手を取り合って、戦争がない世界にしたい。そう簡単じゃないでしょうけれど、それだっていいじゃないですか。理想なんて高ければ高いほどいいです。実際にそれを実現する実力がスカーレットに備わっているかは別として。
平和への願いだけでなく、私としては、「許せ」の意味の真相についてが良かった。ここはグッと来るものがありましたね。自分の幸せを願ってくれた誰かのためにも自分を許す。スカーレット自身がどれだけ父のために、復讐のためだけに生きてきたのかということを考えると……。まあそれはそれとして「そんなことのために生きなくていい」的な父親の言葉は微妙に情がないと感じましたが。
でもこの一連の場面はかなり好きです。憑き物が落ちたようなスカーレットの表情と、生への執着に取り憑かれたままのクローディアス。ここの対比は見事でした。3Dでここまでの表現ができるとは……。感動しました。そして竜ですよ。あのどこかスチームパンクみもあるドラゴン。果たしてあれはスカーレットの怒りだったのか、葛藤だったのか、復讐心だったのか。考えれば答えはありそうですが、それよりあのドラゴンは本当にビジュアルが素晴らしい。フィギュアがほしい……。
ゆえに勿体ないんですよね。テーマが明瞭で、やりたいことや伝えたいことはわかるのにチョイスされた演出や描写がどうにもしっくりこない。カッチリハマっていれば、きっとヒットする作品になったと思うのですが。
ラストシーンの群衆表現も、2Dだとどうにも印象が薄い……あと人が多すぎる! いい拡声器を使っているに違いありません。魔法とかある世界だったらわかるんですけどね。ううむ、元ネタの時代が時代なだけに違和感が……。
映画「果てしなきスカーレット」の感想でした。
自分の目で鑑賞しなければ「面白くない映画」という評価で断じていたかもしれないので、自分の目で確かめられて本当に良かったと感じました。面白い場面は確かにある映画でしたし、見ごたえもあったので楽しめましたよ。自分の好みにはそこまで刺さりませんでしたが……とにかく惜しさの方が目立つ。いやあ、エンタメって難しいですね。そこが面白くもあるのですが。
細田監督の次回作は果たしてどうなるのでしょうか。